風力発電に脅かされるハチクマ1万kmの渡り

佐世保市の「木場山」・佐賀県との県境「国見山」・唐津市と伊万里市の境界付近などハチクマの渡りのメインルートに風力発電建設の計画があります。
 そこで、ハチクマの渡りを知ることによって風力発電が渡りにどのような影響を与えているのかを考えてみましょう。


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北松浦半島はタカ道のジャンクション
 市内では、241種の野鳥が確認されています。これまで確認された野鳥を生活型に分けると、留鳥23%・夏鳥7%・冬鳥33%・旅鳥37%となります。旅鳥が37%と最も多くなっています。これは本市が本土の最も西に位置し、大陸に近いためでしょう。
 一般的には余り知られていないかもしれませんが、佐世保市は小型のタカのアカハラダカの渡りが観察されることで全国的に有名で、特に交通の便が良い烏帽子岳や冷水岳には、9月のシーズンになると全国からバードウオッチャーが訪れます。
国内で繁殖し、越冬のために東南アジア向かうハチクマと朝鮮半島等で繁殖した(*)アカハラダカが日本を経由して同じ東南アジアへ向かう途中に佐世保で合流します。さながら高速道路のジャンクションの様です。
 アカハラダカの渡りのピークは9月10日~20日。ハチクマは9月下旬です。
*宮古野鳥の会顧問の久貝勝盛さんはアカハラダカの渡りの本流はハチクマと同じではないかと推測されています。

渡りの発見
 この季節アカハラダカが大量に長崎県の上空を渡ることが知られたのは、日本野鳥の会長崎県支部の竹上修・谷口秀樹さんが1985年9月14日に諫早市の五家原岳山頂で13,000羽を、同日に西彼県民の森で村山和聰さんが5,000羽のアカハラダカが渡るのを観察したことからです。
 ハチクマについては、谷口秀樹さんらが1989年9月24日に1,251羽のハチクマが福江島の大瀬崎を大挙して飛び立つのを観察しています。
長崎・五島列島 福江島の博物誌(http://fukuejima.la.coocan.jp/)を公開されている上田さんによれば、1994年から続く大瀬崎での調査における最高記録は、2008年度の22,952羽、昨年2015年は15,657羽、2016年は10,485
と集計されています。
 日本野鳥の会長崎県支部では1985年のアカハラダカの渡りの発見を機にタカの渡り調査を続けています。私も以前は会員でしたので、タカの渡りの季節は楽しみで、9月~10月中旬には国見山・烏帽子岳・冷水岳・志々伎山(平戸)などで調査に参加していました。
さて、今回主に紹介するハチクマは、日本では初夏に夏鳥として渡来し、九州以北の各地で繁殖します。ハチクマは、ハチ類の蛹や幼虫を主食にするタカ科の鳥で、英名では「Oriental honey-buzzard」です。
 餌がなくなる9月中下旬から10月上旬に、本州から九州へと向かい、中国・ラオス・ベトナム・マレーシアを経由しインドネシアへ渡っていきます。

・ハチクマの秋の渡り
 2012年にハチクマプロジェクト{慶應義塾大学SFC研究所生物多様性研究ラボ(樋口広芳慶應義塾大学特任教授)}がハチクマの渡りを衛星を使って調査しました。その時の情報は、web上で公開されており、「ハチクマプロジェクト2012」で検索出来ます。
 発信器を付けたのは4羽の成鳥です。愛称・放鳥日・放鳥場所・性別に記します。
・ケン(紺)・2012/6/22・青森県黒石市・♂ ・ナオ(赤)・2012/6/22・青森県黒石市・♀
・クロ(紫)・2012/6/20・青森県黒石市・♂ ・ヤマ(青)・2012/6/30・山形県西置賜郡・♂

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(図1)2012 秋の渡り
図1は発信器を付けたハチクマが飛び立ってから、越冬地に到着するまでの軌跡です。
 ハチクマは日本列島を南下して瀬戸内海から行橋市→福岡市→伊万里市→佐世保市→上五島を通過し大瀬崎付近から海上へ出ます。そして、東シナ海約700㎞の海上を越え、中国の長江河口付近に入ります。その後、中国のやや内陸部を南下し、インドシナ半島、マレー半島を経由してボルネオやフィリピン、あるいはジャワ島や小スンダ列島にまで到達して、渡りを終えます。総延長移動距離、約1万キロ。約1ヶ月の旅です。
  下図の伊万里市や佐世保市の軌跡を詳しく見ると、ケン・ナオ・クロの3個体が揃って国見山付近を通過しています。別のルート(熊本経由)で来たヤマは天草からわざわざ佐世保市俵ケ浦半島まで来て上五島へ渡っています。
 多くのハチクマ個体群の中から、標識されたわずか3個体が雷山~国見山~将冠岳~大崎半島を通過していると言うことは、渡りのメインルートではないかと思われます。

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(佐世保の上空はメインルート)

渡りは春と秋でコースが違う
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(図は春の渡り)

 インドネシア辺りで越冬した個体は、再び繁殖地の日本を目指します。渡りは2月の中下旬から3月に始まります。マレー半島の北までは、秋の経路を逆戻りしますが、その後、インドシナ半島などで、1週間から1ヶ月の滞在をしたのち、中国の内陸部を北上し、朝鮮半島の北部に至ります。
 つぎに、朝鮮半島を南下し、朝鮮海峡を越えて九州に入ります。ここで東に進み、繁殖地の長野県や山形県、青森県などに戻ります。
 ハチクマは秋と春で渡りの経路を大きく違えています。南下する際に最も危険なのは大瀬崎から中国までの東シナ海です。あまり羽ばたかずに風に乗りながら移動することの多いタカ類にとって、島影のない約700㎞の海上をいかに渡るかです。
 ハチクマプロジェクトによれば、「東シナ海の秋と春の気象条件、とくに風向と風力について調べたところ、ハチクマが大陸に向かう9月中下旬から10月上旬にかけては、東からの風がかなり安定して吹いています。ハチクマは、この追い風を利用して、西に向かって移動しています。」
 陸上では、山に沿って出来る上昇気流を使って移動していますが、海上では安定的に吹く追い風を利用していたのです。
 ハチクマが渡る5月には、東シナ海の気象条件は不安定で、約700㎞の海を越えるのは危険なため、大陸内を大きく迂回し約170㎞の朝鮮海峡を渡った方がはるかに安全です。
それにしても、渡りの経験の無い若鳥が渡りのルートをどうして知るのか。秋の渡りの際は成鳥と若鳥が混じって渡るので、若鳥は成鳥に付いていけば良いのかと思いますが、経験の無い春のルートをどうして知るのか? 成鳥がリードする? また、どうして放鳥地に再び戻ることが出来るのか?  
自力では遠くへ行けない人間には理解できないことです。
 気になるのは、ナオ(6/6 韓国)とクロ(4/3 タイ国境付近)がこの日付以降の軌跡が記録されていないことです。共に成鳥なので一度は渡りを経験しているので、とても気になります。
 通信が取れなくなったのか? この辺で渡りを止めとくか・・・? 最悪、密猟によって命を落としたのかも知れません。
 また、タカの渡りをより詳しく知りたい方は、以下のブログやホームページをご覧になって下さい。
赤腹鷹柱 http://akaharadaka.blog.fc2.com/
タカの渡り全国ネットワーク http://www.gix.or.jp/~norik/hawknet/hawknet0.html

気がかりな障害物
 タカ類やツル類などの大型の渡り鳥が多く通る場所は風況が良いために、風力発電の建設にとっても良い場所となります。
 大型の渡り鳥は長距離を渡る際にエネルギーを節約するために、山の斜面で発生する上昇気流を利用します。上昇気流を捉えて高度を上げた後はグライダーのように滑空し、高度が下がると再び上昇気流を捉えて上昇し滑空。これを繰り返しながら移動します。
 この際に、尾根筋に建設される風力発電機が渡りの障害となります。

①風車のブレード(羽根)に衝突する
 下図は宇久島の風車に衝突し体が半分になったミサゴです。ミサゴは宇久島で繁殖し海岸を飛んでいるのをよく見かけます。ミサゴは風車の存在を知っていたはずです。それなのにブレードに衝突しています。
 これはモーションスミア現象によるものと考えられており、この現象は室内実験により証明されています。猛禽類は回転している風車のブレードから約10m以内に近付くとブレード見えなくなってしまい、風車の存在を認識できなくなるという現象です。人間でも、速く回る扇風機の向こう側が透けて見えますが、猛禽類ではそれがもっと早い段階で起こるということです。
 毎日監視していれば別ですが、死体は普通カラスやトビなどに持ち去られたり食べられて人の目に触れることは滅多にありません。このようなことでどれだけの個体が被害に遭っているかは分かっていません。
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(ブレードに衝突し体が半分に裂けたミサゴ)

②風車があるために渡りのコースを変更する
 これはエネルギーを無駄に消耗させますので長距離を渡る鳥にとっては厳しいものです。
「ハチクマプロジェクト2012」のケン・ナオ・クロの3羽が通過している場所に計画されている風力発電が次の3カ所です。
 佐世保市烏帽子岳付近(2000kw×4基)、国見山の佐世保市と伊万里市の境界(3400kw×10基)、唐津市と伊万里市の境界付近(4,500kW×12基)
 また、世知原町板山茶園にも2機の風車建設計画がありました。建設計画地には近隣に住居があることから、「世知原町の自然と生活環境を守る会」の方々の反対署名を受けて建設は中止となりました。

*エコ・パワー(株)が国見山に34000kwの風力発電建設を進めており、現在配慮書の縦覧が行われています。
http://furusatoiine.at.webry.info/201806/article_8.html
http://furusatoiine.at.webry.info/201807/article_2.html

とにかく、片道約1万キロを渡る鳥たちの障害をつくることのないようにせねばと思います。

*内容の一部を2018.8.11に差し替えました。


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